2019年11月6日水曜日

介護問題に対する一発解決策 かいごー いっぱーつ


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介護問題に対する一発解決策


札医通信 令和元年10月号に投稿



八重山民謡「とぅばらーま」の節で唄う。昔からある八重山民謡を代表する曲の一つなので沢山の歌詞があり、現在も新たな歌詞が作り続けられている。上記のものは私が作詞した。意味は、あれ程強かった私の父よ。今や寝起きもままならなくなってしまった(八重山の島言葉(すぃま くとぅば)で)。

 さて、いきなり八重山民謡の話から入ったが、令和日本。今や全国津津浦浦、親の介護が国民的大問題となっている。あれほど強くて自分を叱咤激励してくれた親も歳を取るだけ取ってしまった。寝起きもままならなくなったり、認知症が(はなは)だしくなるとその往時はもはや見る影もない。こうなると親の介護というものが大問題となってくるのである.実家に遠方から足繁く通う人も多いし,親の介護の為に離職する,所謂(いわゆる)「介護離職」も珍しくない.

 今,全国民にこの介護の難題が突きつけられていると言っても過言ではなかろう.
 さて,この問題を一発で解決する策があると私が申し上げたら皆様方は驚かれるであろうか.




 介護の問題というものは、あれほど頼り甲斐があって我々を育ててくれた親が衰え切るのをみる辛さ、という心情的問題も大きいのだが、その(かなめ)は経済的問題である.ここでは(もっぱ)らお金のことに焦点を当てて話を進めていくものとする。

 先に述べたように,寝たきりになったり認知症がひどくなったりすると,殆ど一日中見守りが必要となる.あるいは,介護施設や老人ホーム(以下、老人施設と略する)に入所してもらうしかなくなる.

 しかし,この老人施設入所にはかなりの金がかかるのである.
 一人,月に20 - 30万円くらいかかる。簡単にいうとこれくらい支払いのできるほどの蓄えがあるか、年金がないと老人施設には入られないのである。

 次に、老人一人にかかる費用の内訳をざっと見てみよう。
 最初に申し上げておくと、介護保険は非常に複雑である。故に一概には言えないところがあるが、細かいことばかり述べてもしょうがない。大まかに述べさせていただくことをご了承願いたい。

 老人施設入所には介護保険は使えるが、「ホテルコスト」というものは含まれない。「ホテルコスト」は住居費と食費、光熱費である。2005年に改正介護保険法が国会で可決された。この法律で「ホテルコスト」の利用者自己負担が決まったのである。これがどのくらいの値段かは、その老人施設がどこに建っているのか。街中か郊外か(土地の値段が違うと部屋の値段も異なる)、個室なのか相部屋なのか(今は大概が個室である)、食費はその施設がどのくらいのものを設定するのか、で異なるが、これで10万から20万円ほどになるようだ。

 その他に介護保険を利用した分の負担金(1−3割)を支払うことになる。これは3万から9万円。
 あと、具合が悪くなったり転んで怪我をしたりすると病院にかかったりするがその送り迎えの費用(これも家族が送迎すれば無料となるが)。 
 他、オムツの値段等の雑費。
 これを合計すると大体20 - 30万円となる。
 初めて親の介護をして、そして老人施設入所を考えた時にこの値段に驚愕される人も多いが、これが現実である。

 先日、知り合いのご夫婦の90歳代の4人の親御さんがすべてご存命という人がいたが、この4人が皆、老人施設に入所するとなると月に90万円から120万円かかることになるがこれも現実である。

 これが老人介護の最大の問題であると思われる。

 これを解決する策を示したい。
 それは2005年の改正介護保険法以前の療養型病床群にある。

 この当時は「ホテルコスト」は自己負担ではなくすべて国民保健で(まかな)われた。当時、私は計算したことがあるが、老人一人が療養型病床(以下、療養型と略する)に入院した時の総費用は30万−35万円であった。老人は1割負担であったので、月の負担額は3万5千円程度。当時、最低年金が4万円であったので、だれでも家族に経済的負担をかけることなく入所でき、5000円程度の「お小遣い」でおやつも楽しんでいた。現代の老人施設と比べると夢のような話ではないだろうか。

 療養型病床群の利点、そしてその復活については、日本医師会は政府に常々働きかけている。今、政府を牛耳っているのは、内閣直属の「財政諮問会議」。その構成メンバーは多くが「民間議員」である。「民間議員」という言葉は新聞、ニュースなどで耳にしたことのある人も多いであろう。多くは大企業の社長やその分野に明るいとされる大学教授である。ここできちんとしたいのは、「民間議員」といっても選挙で選ばれた「議員」とも「選挙」とも何も関係がないということ。つまりただの「民間人」である。
 さて、このような財政諮問会議のメンバーの会議で、日本医師会が療養型のことを訴えても、何を思っているのか「前近代的な話」ということで一蹴されている。このメンバーの「民間議員」というか「民間人」は現代の「白衣の宰相」(註1)の如くに大変な権勢を有しているので、こう言われてはどうしようもないのが現実である。
 
 さて、ここで問題は、かつての療養型はこの財政諮問会議のメンバーの仰る通り「前近代的なもの」なのであろうか。
 それを経済的な面から見ていきたい。老人介護の問題は徹底的に金の問題だからである。
 1人の老人に1ヶ月にかかるお金は3035万円くらいということは先に述べた。これはかつての療養型も現在の老人施設も不思議なことに同じくらいである。何が不思議なのかと言うと、療養型病床は医師、看護師が常時配置されている。老人施設は病院ではないので医師は常駐していない。看護師の数も少なく、病院のように直接に患者さんの看護をするわけではない。そこまで潤沢に配置されてはいない。どちらかというと健康相談的なことが主な業務のように私には思える。確かに不思議である。

 いや、実はあまり不思議ではない。2005年に改正介護保険法が成立した当時、規制緩和の嵐が吹き荒れていた。療養型を縮小廃止し老人施設に移行するというのも規制緩和の流れである。政府要人曰く「医師は経営能力がないので、老人施設は経営能力に富んだ人にやらせよう」と。要は経営能力に富んだ財界人に任せろ、ということ。
 美辞麗句を連ねても本音は自分たちが介護ビジネスに参加してお金を儲けるためにやるのであるから、そのように制度設計をした。つまり、値段を高めに設定した。故に、医師が管理する療養型と同じくらいの値段にしてしまったのである。そこまでして素晴らしいものになったのか。彼らに自画自賛するほどの経営能力はあったのか。今や明らかであろう。老人施設は彼らがここまで値段を高いものにしたにかかわらずなかなか収益の出るものではない。
 結局、そこで働く職員の給料を抑え、ブラック企業の代名詞になった。しかし、経営の方はそれでもダメで倒産、廃業が相次いでいる。そのため入居者は大きな迷惑を蒙ることになるのである。

 さて、話を戻す。老人施設から医療機関にかかる場合の経費について考えてみよう。入所中のご老人が病気や怪我をした時、老人施設には医師が常駐していないため医療機関を受診することになる。すると当然であるが医療費が発生する。

 当院にも近隣の老人施設から転倒して腰を打ったとか膝を打って痛がっている、といって、施設の人が利用者さんを連れて来ることがある。

 骨折もなく軽度なケースの場合のことを述べる。
 医療費としては初診料に簡単な処置料、そして、痛み止めや湿布などを処方すると全部で5000 - 6000円くらいとなろう。1割負担ならその1割を支払うことになる。老人施設から来られる場合は向こうのスタッフが付き添う。これだけのことをするにも、2時間くらいはかかるものである。その時のスタッフの時給を考えると、一概には言えないが、2000 - 3000円くらいなるのであろうか。そのほかに車で来るので車代がかかる。車代は施設により異なるが近隣なら往復で1000円前後というところだろうか(介護タクシーを使うと一般のタクシーのざっと3倍くらいの値段となる)。これがこの時の経費なのである。

 これが療養型ならどうなるのか。
 かつて自分が勤務していた病院は急性期病院であるが、療養型病床が併設されていた。
 具体的には、病院の2−3階が一般病棟。4−5階が療養型病床であった。このような病院はたくさんあった。一般的なスタイルであった。
 ここの療養型の患者が同様に転んで膝なり腰なりを痛めると整形外科である自分が療養型のその患者さんの主治医の要請を受けて診察をしにいくことになる。費用としてはまったく軽度なものは無料であった(打撲、挫傷、風邪などの軽度な疾患の処置はあらかじめ入院費に含まれ事実上は「無料」。骨折をして手術となると整形外科病棟に転科しそこで治療した。それは一般的な医療費がかかる)。もちろん付き添いのスタッフのお金も車代もかからない。経費の面では実に合理的であった。

 もっとすごいことがある。
 老人施設は当たり前だが病院ではない。しかし、そこにいらっしゃるのはご高齢のご老人ばかり。
 病気がちの人も多いし、桑楡(そうゆ)将に(せま)らんとする人も多い(註2)。胸が苦しくなったり、お腹が急に痛くなったり、呼吸が辛くなったりする人も多い。人が亡くなる前には、その大分前からいろいろな症状を呈するものなのである。当たり前だが病院ならこのような症状に速やかに対応できる。適時、薬を使用し、症状を緩和できる。

 しかし、老人施設ではこのような処置は出来ない。どうするか。救急病院に救急車で送ることになる。搬入先の救急病院でも今までの経過がわからないので、フルに検査をしてフルに処置をすることになる。救急医療の負担は増大し、何よりもこの時に膨大な医療費が費やされることになる。

 療養型ではずっと今まで経過を診ているから、落ち着いて対応する。「そろそろかなあ」ということも分かるのである。
 よく当直の時に看護師から「〇〇病棟の□□さん。血圧低下しています。明日の朝くらいが、そろそろです」との報告を受けることがよくあった。大体その通りになるものである。このようなものでも老人施設なら大騒ぎとなり救急車を呼ぶことになるのであろう。

 もうお分かりであろう。療養型のほうが介護保険を使って運営する老人施設より経費は圧倒的にかからないのである。
 療養型は何もこの民間議員の先生が指摘されるように前近代的なものではない。むしろ合理的なものである。
 ご高齢のご老人はいろいろな病気を抱えている。故に「老人医療」という立派な医療の一分野なのである。食事やトイレ介護、そしてリハビリだけで何とかなるものではないのである。

 結論・・・私の策
 療養型病床を復活させ、そこでのホテルコストなども公的負担としよう。すると、公的負担、利用者負担を含めた総合的な医療費、介護費用も大きく削減できる。きっと月々35000円から40000円の患者負担(利用者負担)でできるはずだ。「介護離職」などもなくなるであろう。介護に関する国民的悩みが一気に解消するはずである。

註1 白衣の宰相:無位無冠ながら、宰相、つまり、総理大臣並みの権勢を一国の政治において有している人。



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